【書評】『結論を言おう、日本人にMBAはいらない』遠藤功

 ★★★★★★★☆☆☆

結論を言おう、日本人にMBAはいらない (角川新書)

結論を言おう、日本人にMBAはいらない (角川新書)

 

 日本で有名なMBAというのどこであろうか?慶應、早稲田、一橋、神戸、グロービスあたりであろうか?私自身はMBAホルダーではないし、海外でも日本でもMBAを取得した知り合いはいるが、彼らにMBAの感想や評価を深く聞いたことがないため、実態はわからない。ただ、この本はMBA、特に日本のMBAを目指す人が読んで損はないと思う。

著者の遠藤功氏は外資系のコンサルティングファームであり、元早稲田ビジネススクールの教授である。つまり、日本を代表するビジネススクールの教授がMBAは日本人には必要ないと言っているのであるから、かなり挑発的なタイトルである。

 MBAの価値は私なりに本書を翻訳すれば、大まかに3つあり、「切磋琢磨」「シグナリング」そして「人脈」である。そして日本のMBAはこの3つがどれも中途半端であるため、大して役に立たないし、企業もMBAを評価しない。


米国や英国などの有名な海外のビジネススクールでは、卓越した実務家や研究者を集めて、FTやeconomist、US-NEWSなどの経済雑誌のランキングを上げ、世界中から意欲的で優秀な学生を集める。そんな彼らに厳しい課題や試験を与え、競争させ、議論させ、自らを磨き上げていく(切磋琢磨)。有名企業は著名なビジネススクールの学生を高く評価するため、卒業生は有名企業に高給取りとして雇われる(シグナリング)。そして、卒業生は世界中の有名企業へ散っていくため、ネットワークが形成される(人脈形成)。そしてますますMBAのブランド力が高まり、優秀な教授が学生が集ってくる…こうした好循環を作り上げていっているのが、海外の有名なMBAスクールである。

 

が、一方で国内MBAはそのどれもが中途半端だ。

 

まず、「切磋琢磨」である。海外の有名MBAは世界中から優秀な人材が集まり、彼らと負荷をかけ競争させることで、自らの能力を磨いていく。そこにまず価値がある。

が、そもそも国内のMBA過程は2003年度の文部科学省専門職学位過程を創設したところから始まるのだが、実際大してニーズもないのに供給だけ増やしたため、定員割れの学校が続出した。MBAを閉鎖してしまう学校まである。結果、国内のMBAに入るような人間は将来不安を感じて心の隙間を埋めたがっている中堅サラリーマンか、大して日本語もしゃべれない中国人だらけになり、海外のMBAの様に世界中からエリートをかき集めて、切磋琢磨するという環境と比較するとかけ離れたものになってしまっている。彼らに負荷をかける教授陣も、卓越した実績を残した実務家やTopTierのジャーナルに掲載した研究者はその数が限られているため、なかなか集まらない。そのため、ランキングも上がらない。

シグナリング」の面においても、そもそも中堅サラリーマンの慰め程度のものでしかなく、大して実務の能力が担保されているわけでもないため、有名企業も評価しない。いわんや外資系のコンサルティングファーム投資銀行など高給が約束されている企業である。

結局「人脈形成」の面でも、大したキャリアアップもできず、日系企業のなかで埋もれていき、大した人脈も形成できない。

…と、かなり糞味噌に書いている(当然だが私が書いているわけではない)。

正直プレジデントやらの経済雑誌やネットの与太話では「よく聞く話」ではあり、特段目新しいものでもなんでもないのだが、早稲田MBAの教授でコンサルファームの会長殿がこうして新書として書くと破壊力と説得力がまるで異なるわけである。

早稲田MBA設立までのゴタゴタ(ゲスの勘繰りになってしまうが、正直これが切欠になったのかなという感は否めない)や早稲田MBAの教授が修士論文を盗用して停職処分を受ける(滅茶苦茶…)などの早稲田MBA内部の暴露話なども、それなりに面白く読めるし(部外者ですし)、また、書きぶりは過激であるが、あながち間違った問題意識でもないと感じる。

MBAに限らず、ロースクール、アカウンティングスクール、公共政策大学院など、所謂高度専門職の大学院の迷走っぷりも似たようなものかもしれない。

もし、「ちょっと仕事も慣れてきたのだが、大したスキルも人脈もないし会社も自分も将来が不安だから、大学院でも行こうかな…」と考えている人がいたら、読んで頭を冷やしてみてもいいかもしれない。